「ここまでやるか!? 規格外の開発魂、自動巻きモデルいよいよスケッチ公開!」
2019.10.25 UP

こんにちは、2代目代表の橋本です。
前回の60周年記念企画のクオーツバージョンに続き、今回の第3話では、もう一つの自動巻きモデルの開発物語についてお届けしてまいります。

60年目に復刻する、ブルーインパルス史上唯一となる貴重な真実と、今まで誰も手がけてこなかった航空パイロットだけの“あるもの”の完全再現など、60周年にふさわしい永久保存版の内容となっていますので、ぜひ最後までお楽しみください。

幻の天竜ブルー

ブルーインパルスと言えば、今でこそブルーカラーの機体がトレードマークとなっていますが、実はその60年の歴史の中で、たった一度だけ、ブルー以外の機体カラーが存在していた事実をご存知でしょうか?

F-86F ブルー

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T-2 ブルー

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T-4 ブルー

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もはや逸話になりかけている真実ですが、実は初代F-86Fブルー時代の創成期に、わずか1機だけ金色に塗装された「黄金のブルーインパルス」が存在していた時期があります。
通称“天竜”と呼ばれていた頃の機体です。(天竜のネーミングは、当時のホームベースである浜松基地付近を流れる天竜川にちなんで名付けられました。)

この天竜は、1961年10月から1963年8月までの僅か1年10ヶ月という短い期間のみ運用され、その後すぐに後期塗装へと塗り替えられてしまうのですが、その天竜時代の編隊長機だけがブルー史上唯一の“金色”であったことが、記録資料に記されています。

ブルーインパルスの原点となったこの幻の天竜を、60年の時を経て完全再現することが自動巻きモデル開発のテーマとなったのでした。

僅か2年弱という短い運用期間であったこともあり、現存する画像資料は極めて少ないのですが、航空自衛隊浜松広報館では、その記録と写真の一部を見ることが出来ます。その貴重な画像がこちらです。

天竜時代のブルーインパルス

浜松広報館で見ることができる、天竜時代のブルーインパルス

初期塗装だけに描かれた、胴体を斜めに走る2本の帯は、天竜時代にだけ見ることできた塗装デザインで、部隊内では襷(たすき)と称されていたと言います。
後期塗装のF-86Fと比べてみると、その違いがよく分かります。

F-86Fブルーインパルス

後期塗装時代のF-86Fブルーインパルス(いわゆるハチロクブルー)

資料によれば、この天竜塗装こそがブルーインパルスの最初のアクロ塗装で、当時の浜松基地の隊員から募集したアイデアの中からの選ばれたものだったといいます。

よく見ると、初期の天竜塗装では、当時第1飛行隊のコールサインであった「チェッカー」のチェッカーパターンがまだ尾翼に描かれています。一方、燃料のドロップタンクにはすでに「Blue Impulse」と描かれており、この時代が、まさにブルーインパルスの黎明期であったことを物語っています。

ブルー黎明期の貴重な資料

尾翼に描かれた「チェッカーパターン」と、燃料タンクの「Blue Impulse」は、まだコールサインと編隊名が異なることを物語る、ブルー黎明期の貴重な資料。

そして、発足当初5機のうちの、編隊長機である1番機(機体#937)だけが金色塗装であったことを示す、超貴重なカラー画像がこちらです!

天竜塗装のブルーインパルス

1番機(機体#937)だけ金色に輝く、天竜塗装のブルーインパルス

今では、多くのブルーインパルスファンや、現役の空自隊員でさえその名を知らない人も多い天竜ブルー。
インターネットで検索しても、1枚もその画像を見つけることができないほど現存する資料に乏しいその史実は、やもすると貴重な歴史の真実から逸話となってしまう日が本当に来てしまうかもしれません。

今回60周年の節目に私たちが開発テーマに敢えて「天竜」を選んだのは、私たちが唯一作ることができる腕時計を通して、ブルーインパルスの貴重な歴史を後世に語りついで欲しいという願いからでした。

まさに知る人ぞ知る今回の企画は、これまで自衛隊時計を永年手がけてきたケンテックスだからこそ、説得力を持って実現できる開発テーマなのです。

果たしてどのようなモデルへと昇華していったのでしょうか。

歴史を語り継ぐために。幻の天竜ブルー完全復刻!

手探りの中、取材を重ねながらその真実に迫った、ブルーインパルス60周年記念F86-F天竜仕様の自動巻きコンセプトデザインがこちらです!!

天竜仕様の自動巻きコンセプトデザイン

ムーブメントは、一生ものの腕時計にふさわしい国産自動巻きクロノグラフの最高峰「SEIKO NE88」を採用しました。高振動、コラムホイール式、垂直クラッチ伝達による駆動方式は、精度、耐久性ともに抜群の性能を誇る、日本の精密技術が光る傑作ムーブメントです。

外装には、クオーツモデルの硬度を上回る、グレード6の高硬度チタンをフルボディに採用するとともに、その表面をゴールドとプラチナのツートンでめっき分けを施すことで、ブルーインパルス史上最初で最後となった、天竜時代の金色機体が再現されました。

グレード6の高硬度チタンをフルボディ

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ゴールドとプラチナのツートン

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文字盤には、希少な天然白蝶貝のスライスに一つ一つ手作業でクリアブルー塗装を施した、特別仕様の“ブルーシェル”を使用。時を経てもなお色あせることのないその普遍的な輝きは、初代ブルーインパルスの栄光を表現したものとなっています。

天竜仕様の自動巻きコンセプトデザイン

深い輝きを放つブルーシェルダイヤル(検討段階のプロトタイプのため、デザインは異なります)

そしてスケルトンとなっているクロノグラフのサブダイヤルには、天竜仕様である証として、9時位置にはその機体であるF-86Fが線画で描かれ、3時位置には天竜時代だけに存在していた、尾翼のコールサインマーク「チェッカー」パターンが描かれています。

チェッカーは、戦後の航空自衛隊誕生後に初めて発足した戦闘機部隊「第1航空団第1飛行隊」の正式コールサインであり、ブルーインパルスの起源であるとともに、航空自衛隊そのものの原点でもあります。

天竜時代にだけ存在していた尾翼のチェッカーパターン

天竜時代にだけ存在していた尾翼のチェッカーパターンが、3時サブダイヤルに描かれている

さらに文字盤12時位置下には、今では目にすることができない、初代F-86F天竜時代の部隊エンブレム(インシグニア)が配されました。

当時のエンブレムは、ブルーの歴史を記録した貴重な資料から、細部に至るまで当社が独自に完全再現したものです。
エンブレム上の編隊は、今のアロー形状とは異なる手裏剣形で描かれており、これはF-86Fの機体形状を強く意識したデザインとなっています。また今とは大きく異なる点として、当時はまだ5機編成であったことから、その編隊マークも5機のみで描かれています。

グレード6の高硬度チタンをフルボディ

(右)現在のエンブレム

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ゴールドとプラチナのツートン

(左)再現された天竜時代のエンブレム

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細部に至るまで忠実にその要素が再現された天竜仕様の本モデルは、初代ブルーインパルスの歴史を後世に語り継ぐためのストーリーが凝縮された、60周年目に贈る渾身のオマージュモデルとなっています。

カレンダーギミックの真相

グレード6の高硬度チタンをフルボディ

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本モデルにも、前回第2話でご紹介した、T-4ブルーの垂直尾翼をモチーフとした、スペシャルカレンダーが搭載されています。

まだお読みでない方はぜひ第2話をご覧いただきたいのですが、6番機カレンダーの後に現れる7日目だけ、その垂直尾翼に数字が書かれていないことに気づきましたでしょうか?

それに気づいて理由まで分かった方は、ブルーインパルスファンの超上級レベルです。
その理由とは、ズバリこちらの写真の中にあります。

1機だけ垂直尾翼が空白の無番機

1から6番機に加えて、1機だけ垂直尾翼が空白の無番機が密かに止まっていますね?

実はこれはスペア機と呼ばれるもので、いつもブルーインパルスの活躍を陰で支える、縁の下の力持ち的な存在なのです。

航空祭を基地内のエプロンからご覧になったことがある方は目にしたことがあるかもしれませんが、離陸前のブルーインパルスの6番機後方には必ずこのスペア機が止まっていて、万が一6機のいずれかに機体トラブルが発生した場合、すぐに代打で出陣できるように常に準備がなされているのです。

つまり6機で完成されるアクロバット飛行の裏には、この7機目のサポートが必ず存在しているというわけです。

このカレンダーは、その7機目のスペア機も描くことで7日間が完成し、初めてブルーインパルスweekとなる仕掛けとなっています。

アナログ時計でしか成し得ないこのカレンダーギミック開発の裏には、スペア機の存在にもリスペクトを忘れない開発陣のブルーインパルス愛と、時計のオーナーに月に一度必ずブルーウィークを楽しんで頂きたいという遊び心が盛り込まれています。

60周年を記念する、豪華スケルトンケースバック

本モデルは、自動巻きならではのスケルトンケースバックで、そのデザインは60周年にふさわしい限定感溢れる仕様となっています。

自動巻きならではのスケルトンケースバック

金色で縁取られたガラス外周には、初代ブルーから続くエンジンスタートから離陸に至る編隊長機の無線指示が克明に記されるとともに、エンボス加工で立体的に打ち抜かれたパイロットの造形がガラス裏面に埋め込まれます。

さらにパイロット越しに透けて見えるムーブメントローターは完全オリジナル仕様で、ブルーIPメッキが施されたベースには「60TH ANNIVERSARY」の文字とともに現在のブルーインパルスエンブレムがマーキングされる予定です。

ゴールドとプラチナのツートン

ブルー仕様のオリジナルローター(印刷前)

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グレード6の高硬度チタンをフルボディ

エンボス加工で立体的にデザインされるパイロットパネル

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本モデルは、60周年を記念して限定わずか60個だけ生産される予定です。

その証であるシリアル番号はパイロット下部のケースバック外周に、「●●-60」として刻印される予定です。

なお、自動巻きモデルでは、今回ご紹介した天竜仕様と同時に、現役のT-4ブルー仕様も同じく限定60個生産にて製作される予定です。
今回伝えきれないその魅力は、次回のプロトタイプ公開時に写真とともにご紹介してまいります。

60周年記念の自動巻きモデルの製作は、ブルーの歴史の原点となったF-86F天竜と、今なお新たな歴史を作り続けるT-4の両仕様をもって初めて完結するのです。

時計では終わらない、ケンテックスの「創造への挑戦」!!

さて、ここまでで自動巻きモデルの時計開発ストーリーをお伝えしてまいりましたが、まだ物語りは終わらず、ここからが後半となります。

実は、開発責任者である私が長い間温め続けてきた、ある一つの構想。それは夢と言っても差し支えないものでしたが、このブルー60周年の節目に、いよいよ挑戦することとなりました。

それは、ブルーパイロットが使用する「ジェットヘルメット」の完全レプリカ製作です。

ミリタリーファンでなくとも、戦闘機パイロットのヘルメットと聞くと、なんだかワクワクしませんか?(笑)自衛隊の装備品は、米軍物と違ってその実物が世に出回ることは基本的にありません。これまでに、ブルーインパルスのヘルメットをモチーフとした、バイクヘルメットや、オモチャのレプリカヘルメットは目にしたことがあったのですが、納得の完成度と言えるものではありませんでした。

無いのであれば、自分で作ってしまおう!ということで、ついに今回その開発に乗り出し、航空自衛隊幕僚監部の正式な製作許可の下、レプリカヘルメット製作プロジェクトが水面下でスタートしたのでした。

レプリカヘルメット製作プロジェクト

ブルーインパルスのパイロットが使用するジェットヘルメットは、FHG2型(改)式と呼ばれる空自仕様のヘルメットをベースに、部隊の特殊塗装が施されています。

本物の装備品を借りることや外部に持ち出すことは勿論できないため、今回あらゆる画像データを元に、最新の技術を使用したマッピングによる3Dデータ化を行う手法でその開発が進められました。

3Dデータ化
ゴールドとプラチナのツートン

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グレード6の高硬度チタンをフルボディ

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ブルーインパルス仕様の航空自衛隊FHG2(改)式ジェットヘルメット



広報室提供の画像だけでは全然足りないので、あらゆる角度からのFHG2型ヘルメット写真を集めつつ、前後左右からの2Dマッピング作業を重ねていくと、まずは4面から見た場合の2D図が完成していきます。

2D図の完成

さらに、実際にヘルメットに触れることのできる航空イベントでの実物チェックなどを行いつつ、全ての面構成に矛盾のない曲面カーブを加えていくと、、、、

360度方向から確認可能な、3Dマッピングデータが完成します!
何も無いゼロベースからのこの完成度!そのヘルメットの全貌をあらゆる角度から確認することが出来るため、思わず、スクリーン上で何十周も回してしまいました。
感覚値ですが、復元精度は恐らく95%はあるのではないかと思います。

3Dマッピングデータが完成

ただこの時点ではまだ6合目くらいです。
ジェットヘルメットには、酸素マスクやそれを装着するバヨネットと呼ばれる金具、そのレシーバー、そしてシールド開閉に関わるパーツなど、細かな付属パーツがたくさんあります。
まさか・・・ と設計チームは思ったことと思いますが、その予想を裏切らず、全パーツばらばらでの設計を指示するのでした。(笑)

もはや、時計屋の域を完全に超えたこの挑戦ですが、なんとか形にしてしまうところがケンテックス設計チームのすごいところ。最終的には細部のパーツに至るまで、全て完全に図面化してしまいます。

一つ一つのパーツを完全再現

バヨネットやシールドの開閉レールに至るまで、一つ一つのパーツを完全再現

時計屋の度を越えた本気のヘルメット開発に、不安を隠し切れない設計チームを説得しつつ、勢いのままモックアップサンプルの製作へと移行していきます。
腕時計の金属加工と比べ、射出成型がメインの樹脂加工はまったく勝手が違い、苦労の連続だったのですが、徐々にそのパーツの一つ一つが仕上がっていくのでした。

そしてついに、ケンテックス史上初、いや全てにおいて史上初となる、記念すべきFHG2型ジェットヘルメットの1stモックアップサンプルが完成します。それがこちらです!!

グレード6の高硬度チタンをフルボディ

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ゴールドとプラチナのツートン

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ゴールドとプラチナのツートン

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データから実際に成型を行った、細かな樹脂パーツと完成した1stモックアップサンプル

どうですかこの完成度!!
塗装こそされていませんが、本物と見間違えるほど細部にいたるまで完全再現されています。

ただ、実物大で製作したため、サイズが余りにも大き過ぎるという問題点が発覚します。。
ここまできて妥協したくない、、、ということでサイズ違いで作り直すことになったのですが、85%とするか75%とするかで意見が割れてなかなか結論が出せません。

そんな中、どちらが良いか見てみたいので両方作らせて欲しいという設計チームからの逆提案により、両サイズの再試作が行われることになります。

結局みんな妥協したくないんだなと、時計ではなくヘルメット製作を通して改めてケンテックスに宿る職人魂を感じることになったのでした。

そしてサイズ違いで製作したモックアップサンプルがこちらです!

モックアップサンプル

左から実物大、85%、75%スケールとなりますが、比較検討のため塗装まで行っています。大きすぎず、小さすぎない、飾れるレプリカヘルメットとして最適な85%スケールでの生産が全員一致で決まったのでした。
(シールドに思いきり私が映ってしまっていますが、、、それだけ鏡面度が高い仕上がりとなっています。) 

ここからは、細部パーツの洗練へと入っていきました。メタルパーツの磨き方(仕上げ)や、塗装方法の検討など、最後の最後まで手を抜きません。
酸素マスクは、色の異なる樹脂とソフトラバーによるダブルインジェクション成型で、その素材感まで本物をリアルに再現しました。

モックアップサンプル

異素材を組み合わせたダブルインジェクション成型による、酸素マスクパーツ

そして、私のわがままから始まったこの規格外の挑戦は、ついに量産へと移行していくのでした。


この精巧なレプリカヘルメットは、ただ単に鑑賞用としてだけに製作されるものではありません。その真の目的は、このヘルメットに60周年記念の自動巻きモデルを収めてオーナー様にお届けするということにあります。

かねてから、一生ものの腕時計を開発する際は、一生保管できる空間も一緒にお届けしたいと想い続けてきましたが、その夢の一つが今回ブルーインパルス60周年モデルの開発プロジェクトで、もうすぐ実現することが出来そうです。

ブルーインパルス60周年目にケンテックスが贈る「創造への挑戦」は、
比類ないその腕時計の開発と、これまで誰も手がけることのなかったジェットヘルメットの精巧なレプリカ製作によって完成形を迎えます。

モックアップサンプル

次回の第4話では、いよいよ完成する全ての最終プロトタイプサンプルを画像でご紹介していくとともに、ブルーインパルス仕様に塗装された最終ヘルメットパッケージもお披露目いたします。


ぜひご期待ください!!